私にも中学入学の際、面接試験なるものがあった。今なお、おぼえ居るが「君が何が一番こわいか」という問いであった。私は直に「地震、雷、火事」とまで答えられたはよいが、そこで息詰ってしまった。すると「おやぢはどうしたか」を突っ込まれた。「父は六つの歳に死にまして」といって頭をかくと試験管がくすくすと笑われた。
今の私にとって最もこわいものは、只火事あるのみである。週に一度は寮生を講堂に集合して「諸君、火の用心を第一とせられよ。第二は自習時間の絶対静粛だ」と教える。時には自習時間のことには触れないこともあるが、火の用心のみは必ず告げる。近来大火事が多い。
4月14日青森油川大浜56戸消失、18日福島県常葉267戸、21日茨城県下館68戸、23日福井県芦原温泉329戸。この半月だけでもこれである。3月には能代潟が全滅してる。それから学校では東京女子美術大学が4月11日に焼けている。私の姉が同校の第一回卒業生であるし、友人村岡哲学士が教頭をしていらっしゃる。横浜の成美学園も焼けたるが、大竹校長とは熟懇であるから、極めて近火の感なきを得ない。4月25日の朝日の天声人語には、貯水地の設備が提唱せられていた。